冬になると、同じきつさで走っているのにペースが落ちる。
雪の降る地域で走っている人なら、心当たりがあると思います。心拍は夏と変わらない。息も同じくらい上がっている。なのに1kmあたりのタイムだけが遅い。
このまま冬を越したら、春には走力が落ちているのではないか。そう思って不安になる時期です。
結論から書きます。落ちているのは走力ではなく、歩幅です。
2シーズン分の練習データを数えたところ、その正体がはっきり出ました。
使った指標
走力が伸びたかどうかを見るとき、ペースだけを追いかけても分かりません。その日の調子や路面で変わるからです。
そこでここでは、心拍1拍あたりにどれだけ進めたかを使います。
計算はこうです。
効率 = 速度(m/分) ÷ 平均心拍(bpm)
同じ心拍で速く走れるようになれば、この数字は上がります。心臓の仕事量あたりの成果、と考えてください。
さらに、路面の影響を見るために2つ足します。
- ケイデンス:1分あたりの歩数。GPSウォッチが表示します
- ストライド:1歩あたりの距離。速度をケイデンスで割って求めます
データは、あるランナーが2年弱で記録した366本の練習から取りました。計測はNike Run Club、心拍は手首の光学式センサーです。
2年目の冬に起きたこと
比較を公平にするため、平均心拍が155〜168に収まった練習だけを抜き出しています。同じくらいの強度で走った日だけを並べた、ということです。
| 月 | ペース | ケイデンス | ストライド |
|---|---|---|---|
| 10月 | 4分47秒 | 188 | 1.110m |
| 12月 | 5分07秒 | 191 | 1.024m |
| 2月 | 5分11秒 | 193 | 1.004m |
| 3月 | 5分15秒 | 194 | 0.989m |
| 4月 | 4分59秒 | 184 | 1.091m |
| 6月 | 4分43秒 | 187 | 1.116m |
10月から3月にかけて、1kmあたり28秒遅くなっています。
同じ心拍で28秒。体感としてはかなり大きい差です。焦るのも無理はありません。
遅くなった中身
ここでケイデンスとストライドを見てください。
ケイデンスは188から194へ、6歩増えています。 一方でストライドは1.110mから0.989mへ、11%縮んでいます。
歩数を増やして、歩幅を削る。雪道を走ったことがある人なら、身体が勝手にやっていることだと分かると思います。
蹴り出せば滑る。だから小さく、速く足を回す。転ばずに進むための、理にかなった調整です。
そしてその結果として、1歩あたりの距離が減る。ペースが落ちる。走力とは別のところで起きている現象です。
雪が消えると戻る
決定的なのは4月です。
ケイデンスが194から184へ落ち、ストライドが0.989mから1.091mへ戻っています。ペースも14秒回復しました。
トレーニングの内容を変えたわけではありません。路面が変わっただけです。
冬の間ずっと「伸びていない」ように見えていた数字は、雪が消えた月に一気に帳尻を合わせました。
距離は落ちていなかった
もう一つ、見落としがちな点があります。
この冬、走行距離は落ちていません。 それどころか12月は222kmで、2年間で最も走った月でした。
走り込みながら、指標だけが横ばいに見えていた。これが冬の数字の厄介なところです。
サボっていたなら納得もできますが、走っているのに伸びない。だから不安になる。
同じことが前の冬にも起きていた
1年前の冬も調べました。
心拍あたりの効率は、12月から3月まで4か月間ほぼ横ばい。そして4月に跳ね上がっています。2シーズンとも同じ形でした。
差は、冬の落ち込み幅です。1年目は非冬期と比べて8%ほど効率が下がっていましたが、2年目は3%程度に収まっていました。
走力が上がるにつれて、雪道の影響を受けにくくなった可能性があります。ただしこれは2シーズン分の観察にすぎず、断定はできません。
この数字をどう受け止めるか
冬の停滞は、測り方の問題である可能性が高い、ということです。
ペースだけを見ていると、走力が落ちたように見えます。しかし心拍あたりの効率とストライドを分けて見れば、何が起きているのかが分かります。
そのうえで言えることが2つあります。
冬のペースで春の目標を判断しない。 3月の数字を根拠に目標タイムを下方修正すると、実力より低く見積もることになります。
冬は心拍を基準にする。 ペース設定で走ると、雪道では強度が上がりすぎます。同じ心拍で走れば、路面が悪い日は自然にペースが落ちる。それで正しいということです。
断っておきたいこと
これは1人の2シーズン分のデータです。
積雪量、気温、路面の管理状況、履いている靴。どれも地域や条件で変わります。11%という数字がそのまま当てはまるとは限りません。
心拍も手首での光学式測定なので、胸ベルト型より誤差があります。寒い日は血流が落ちて数値が不安定になるという指摘もあります。
それでも、2シーズンで同じパターンが出たという事実は残ります。冬に数字が伸びないことを、走力の低下と結びつける前に、歩幅を見てみる価値はあると思います。
まとめ
- 冬は同じ心拍で1kmあたり28秒遅くなっていた
- 原因はケイデンス増加(+6歩)とストライド短縮(−11%)。雪道への適応
- 雪が消えた4月に、ケイデンスもストライドもペースも戻った
- 走行距離は落ちていない。12月は2年間で最多だった
- 同じパターンが2シーズン続けて出ている
- 冬のペースを根拠に走力を判断しないほうがよい
