「自分は伸びているのか」
走っている人なら、誰でも気にすることです。そして時計を見れば、いくつも数字が表示されます。
VO2max、安静時心拍、心拍、ペース。どれを見ればいいのか。
あるランナーの2年分のデータを、3つの指標で同時に評価しました。 結果、それぞれが違う答えを出しました。 どれも同じ人の、同じ期間の記録です。
比べた3つの指標
時計のVO2maxApple Watchが心拍と走行速度から推定した値。ml/kg/分。
安静時心拍安静時の1分あたりの心拍数。時計が自動で記録します。
心拍あたりの効率走行中のデータから自分で計算したものです。
効率 = 速度(m/分) ÷ 平均心拍(bpm)
同じ心拍でより速く走れれば上がります。特別な機器は不要で、GPSウォッチがあれば誰でも計算できます。
3つを並べた結果
走り始めからの24か月を、3か月ごとに区切りました。カッコ内は開始時からの変化率です。
| 期間 | 時計のVO2max | 安静時心拍 | 効率 |
|---|---|---|---|
| 1〜3か月目 | 39.0 | 63 | 0.993 |
| 4〜6か月目 | 41.5 (+6%) | 60 (−5%) | 1.021 (+3%) |
| 7〜9か月目 | 45.6 (+17%) | 59 (−6%) | 1.110 (+12%) |
| 10〜12か月目 | 47.7 (+22%) | 57 (−10%) | 1.162 (+17%) |
| 13〜15か月目 | 51.0 (+31%) | 55 (−13%) | 1.219 (+23%) |
| 16〜18か月目 | 51.7 (+33%) | 55 (−13%) | 1.217 (+23%) |
| 19〜21か月目 | 52.0 (+33%) | 55 (−13%) | 1.263 (+27%) |
| 22〜24か月目 | 53.5 (+37%) | 56 (−11%) | 1.305 (+31%) |
読み取れる話が、3つとも違います。
指標1:VO2maxは「ずっと伸びている」と言う
時計のVO2maxは、最初から最後まで上がり続けています。
止まった期間がほとんどありません。2年目に入ってからも、まだ伸びています。
この指標だけを見ていれば、「順調そのもの」という結論になります。
指標2:安静時心拍は「1年で終わった」と言う
安静時心拍は違う動きをしました。
63から始まり、13〜15か月目に55へ到達したあと、止まっています。 最後の期間ではむしろ56へ戻りました。
この指標だけを見ていれば、「1年を過ぎてからは何も起きていない」という結論になります。
実際には、この期間にフルマラソンのタイムは大きく縮んでいます。安静時心拍は、そこを捉えられていません。
指標3:効率は「最初の半年は無駄だった」と言う
最も厳しい答えを出したのが、自分で計算した効率でした。
最初の6か月で、改善はわずか3%。同じ期間にVO2maxは6%上がり、安静時心拍は5%下がっているのに、この数字だけが動きません。
この指標だけを見ていれば、「半年走ったが成果がない」という結論になります。
なぜズレるのか
理由は、測っている場所が違うからです。
VO2maxは推定値です。 心拍と速度の関係から逆算しています。走力が上がって同じ心拍で速く走れるようになれば、素直に上がります。ただし推定である以上、絶対値の精度には限界があります。別記事で扱いましたが、レースタイムから算出したVDOTとは10ポイント近い差がありました。
安静時心拍は、走っていないときの身体を見ています。 心臓が一度に送り出せる血液量が増えれば、同じ量を送るのに必要な回数が減ります。この適応は比較的早く起き、そして早く上限に達します。
だから1年で止まった。身体が変わらなくなったのではなく、この指標で拾える範囲の変化が終わっただけです。
効率は、走行中の生データです。 加工されていないぶん正直ですが、条件の影響をそのまま受けます。
効率が横ばいだった本当の理由
最初の6か月の内訳を見ると、その正体が分かります。
このうち4か月は12月から3月でした。 このランナーは積雪地で走っています。
雪道では歩幅が11%ほど縮み、同じ心拍でもペースが落ちます。走力が上がっていても、路面がそれを打ち消していたわけです。
証拠に、同じ冬の期間、時計のVO2maxは39.0から41.5へ上がっています。身体は変わっていた。効率という指標が、それを拾えなかった。
どれを見ればいいのか
結論を言えば、目的によって使い分けるしかありません。
数か月単位の変化を見たいなら、時計のVO2max。 絶対値は当てになりませんが、同じ時計で測り続ければ傾向は分かります。3つの中で最も素直に動きました。
走り始めの手応えが欲しいなら、安静時心拍。 最初の3か月で5拍下がります。ペースが変わらなくても、身体は変わっていると確認できます。ただし1年で止まります。
実際にどれだけ速く走れるかを知りたいなら、レースタイム。 5kmでも10kmでも構いません。すべての条件を織り込んだ結果が出ます。
効率を使うなら、条件を揃えて。 同じ季節、同じコースで比べないと意味を持ちません。逆に言えば、条件を揃えれば路面や気温の影響そのものを測れます。
ひとつの指標で判断しない
この記事で一番言いたいのは、これです。
「伸びていない」と感じたとき、それは指標の問題かもしれません。
このランナーが半年の時点で効率だけを見ていたら、走るのをやめていた可能性があります。実際には、その裏でVO2maxは6%上がり、安静時心拍は5拍下がっていました。
数字が動かないとき、別の指標を見てみる価値はあります。
断っておきたいこと
1人分のデータです。 指標の動き方には個人差があります。
時計の推定値です。 心拍は手首の光学式センサーで測っており、胸ベルト型より誤差が大きいとされています。
効率は自作の指標です。 標準的な計測方法ではなく、ここでは比較のために用いました。
積雪地での記録です。 冬の影響は、地域によって大きく変わります。
まとめ
- 同じ2年間を3つの指標で見たら、答えが3通りに分かれた
- 時計のVO2maxは「ずっと伸びている」(+37%)
- 安静時心拍は「1年で終わった」(15か月目以降ほぼ横ばい)
- 心拍あたりの効率は「最初の半年は成果なし」(+3%)
- ズレる理由は、測っている場所が違うから。安静時心拍は早く上限に達し、効率は路面の影響を受ける
- 数字が動かないときは、別の指標を見る。 指標の限界であることがある
