GPSウォッチにケイデンス(ピッチ)という項目があります。1分間の歩数です。
調べると、だいたい同じことが書いてあります。目安は180。それより低い人は、メトロノームを使って意識的に上げましょう。
では実際のところ、意識しないとどうなるのか。
あるランナーの2年弱、366本の練習記録を調べました。このランナーはピッチを上げる練習を一度もしていません。 メトロノームも使っていません。
結果を先に書きます。何もしなくても、175から190へ上がっていました。
2年間の推移
3か月ごとに区切った数字です。
| 期間 | ペース | ケイデンス | ストライド |
|---|---|---|---|
| 1〜3か月目 | 6分03秒 | 175 | 0.945m |
| 4〜6か月目 | 5分45秒 | 179 | 0.971m |
| 7〜9か月目 | 5分28秒 | 180 | 1.018m |
| 10〜12か月目 | 5分18秒 | 184 | 1.022m |
| 13〜15か月目 | 4分54秒 | 190 | 1.073m |
| 19〜21か月目 | 4分56秒 | 185 | 1.099m |
| 22〜24か月目 | 4分51秒 | 190 | 1.082m |
走り始めは175。よく言われる180を下回っています。
そこから特に何もしないまま、7〜9か月目に180へ到達しました。2年後には190前後で安定しています。
速さはどこから来ているのか
ここからが本題です。
ケイデンスを上げれば速くなる、という話であれば、速い走りほどケイデンスが高いはずです。実際にそうなっているのか、2年目のデータをペース帯で分けて見ました。
| ペース | ケイデンス | ストライド |
|---|---|---|
| 5分30秒〜 | 183 | 0.970m |
| 5分00秒〜5分30秒 | 184 | 1.053m |
| 4分40秒〜5分00秒 | 189 | 1.096m |
| 4分40秒より速い | 190 | 1.158m |
ゆっくり走るときと速く走るときで、ケイデンスは183から190、7歩しか違いません。
一方でストライドは0.970mから1.158m、19%も違います。
つまりこのランナーの場合、速さのほとんどは歩幅から来ているということです。脚の回転数は、ペースが変わってもあまり変わっていません。
これは意外な結果ではありません。ダニエルズが観察した「距離が変わってもピッチはほぼ一定で、変わるのはストライドのほう」という報告と、方向として一致します。
ケイデンスが最も高かった月
もう一つ、単純に考えると逆に見える数字があります。
このランナーのケイデンスが最も高かった月は196でした。2年間で最高です。
ではその月が最も調子が良かったのかというと、逆でした。心拍1拍あたりに進める距離で見ると、その年で最も効率の悪い月だったのです。
理由は路面です。この月は雪道でした。滑る路面では蹴り出せないため、歩数を増やして歩幅を削る走りになります。結果としてケイデンスだけが上がる。
実際、ケイデンスの高い上位4か月は、すべて12月から3月に集中していました。
ケイデンスが高い=良い走り、ではないということです。同じ数字でも、走力が上がって高いのか、路面に対応して高いのかで、意味がまるで違います。
この数字をどう読むか
ここから言えることを整理します。
ケイデンスは走力とともに勝手に上がる可能性がある。 このランナーは意識せずに175から190へ移行しました。今の数字が180に届いていなくても、それだけで問題があるとは限りません。
ケイデンス単体では判断できない。 高い理由が走力なのか路面なのかは、この数字だけでは区別がつきません。ストライドと合わせて見るか、同じ条件で比べる必要があります。
速さの源はストライド側にある。 少なくともこのランナーでは、ペースの違いの大半を歩幅が説明していました。
なお、これは「ケイデンスを上げる練習に意味がない」という意味ではありません。ピッチが極端に低いランナーが意図的に上げることで効率が改善した、という報告もあります。ここで示したのは、何もしなくても上がった例が1つある、という事実だけです。
断っておきたいこと
1人分のデータです。 走り始めの175という数字自体が、比較的高めだった可能性があります。160台から始まる人には、別の話が当てはまるかもしれません。
ケイデンスの計測はNike Run Clubによるものです。 機種やアプリによって、算出方法が異なる場合があります。
ストライドは計算値です。 速度をケイデンスで割って求めており、直接測定したものではありません。
このランナーの練習内容には偏りがあります。 ジョグをほとんど行わず、中程度の強度に集中していました。一般的な構成とは異なる点にご注意ください。
まとめ
- ピッチを上げる練習をせずに、2年でケイデンスは175から190へ上がった
- 180に到達したのは7〜9か月目。意識的な介入はなし
- ペースが変わってもケイデンスは7歩しか動かない。速さの違いはストライドが説明している
- ケイデンスが最も高かった月は、最も効率の悪い月だった。原因は雪道
- 数字だけを見て高低を判断せず、ストライドと条件をセットで見る
