GPSウォッチが表示するVO2maxを見て、予想タイムを調べたことはありませんか。そして「この数字なら、もっと速く走れるはずでは」と感じたことは。
結論から言うと、その違和感は正しいです。時計が表示するVO2maxと、レースタイムから逆算した走力指数は、同じ人でも10ポイント近く離れます。ただし時計が壊れているわけでも、計算が間違っているわけでもありません。そもそも別の数字を見ているだけです。
この記事では、同じランナーが1年の間隔をあけて走った2レースの実測データをもとに、その差がどれくらいで、どう扱えばいいのかを整理します。
そもそもVO2maxとは何か
VO2maxは最大酸素摂取量のことで、1分間に体重1kgあたり何mlの酸素を取り込めるかを示します。単位はml/kg/分。持久力の土台となる指標です。
本来は実験室でマスクを装着し、トレッドミルで限界まで追い込んで測定します。呼気を直接分析するので精度は高いですが、一般のランナーが受けられる機会はほとんどありません。
GPSウォッチが表示するのは、この値の推定値です。走行中の心拍数とスピードの関係から逆算しています。「このペースでこの心拍数なら、最大でこのくらいだろう」という推定です。
VDOTは別の数字
一方、ランニングの世界にはVDOTという指標があります。コーチのジャック・ダニエルズが提唱したもので、レースタイムから逆算した実戦的な走力指数です。
VDOTの特徴は、ランニングエコノミー(走りの効率)まで含んでいることです。同じだけ酸素を取り込めても、フォームが効率的な人のほうが速く走れます。VDOTはその差を含んだうえで「結局どれだけ速く走れるか」を数値化しています。
厄介なのは、VDOTも単位がml/kg/分であることです。見た目が同じなので混同されますが、中身は違います。
実測データ:差は約10ポイントで一定だった
ここからが本題です。同じランナーの2レースを比較します。いずれも真夏の国内フルマラソンで、気温の高い条件でした。
| 1年目 | 2年目 | |
|---|---|---|
| ネットタイム | 3時間59分台 | 3時間31分台 |
| タイムから算出したVDOT | 38.0 | 44.1 |
| 時計が表示していたVO2max | 48.1 | 54.0 |
| 差 | 10.1 | 9.9 |
注目していただきたいのは、タイムが28分も改善しているのに、差が10.1と9.9でほぼ変わらないという点です。
1点だけなら偶然かもしれません。しかし走力が大きく変わった2時点で同じ差が出たということは、これが偶然のばらつきではなく、系統的なズレであることを示しています。
なおこのランナーの場合、レース4日前の表示が48.4、当日の表示が48.1と、直前でも数値は小刻みに動いていました。時計の推定値は日々変動するため、単発の数字に一喜一憂する意味はあまりありません。
なぜ時計の値は高く出るのか
理由はいくつか考えられます。
第一に、推定の方法です。時計は心拍数とスピードの関係からVO2maxを求めますが、この推定は理想的な条件を仮定します。実際のレースでは、後半の失速、暑さによる心拍の上振れ、補給の失敗といった要素が加わり、そのぶん実際のタイムは落ちます。
第二に、ランニングエコノミーが考慮されていないことです。酸素を取り込む能力が高くても、それを推進力に変える効率が低ければタイムは伸びません。とくにランニング歴の浅いランナーはフォームが未成熟なため、この差が大きく出やすいと考えられます。
第三に、心拍データの精度です。手首での光学式測定は、腕振りや汗、装着のきつさで誤差が生じます。胸ベルト型のほうが精度は高いとされています。
予想タイムはどれくらいずれたか
VO2max別の予想タイム一覧表に、時計の数値をそのまま当てはめるとどうなるか。同じ2レースで検証しました。
| 1年目 | 2年目 | |
|---|---|---|
| 時計の表示から引いた予想 | 3時間45分台 | 3時間24分台 |
| 実際のネットタイム | 3時間59分台 | 3時間31分台 |
| 乖離 | 約14分遅い | 約7分遅い |
いずれも実際のほうが遅い結果でした。ただし乖離は14分から7分へと縮んでいます。走力が上がるにつれて、予想に近づいてきたことになります。
この縮小は、ランニングエコノミーの改善で説明がつきます。走り込みを重ねるとフォームが効率化し、同じ酸素摂取量でより速く走れるようになる。つまり初心者ほど時計の値は楽観的に出やすく、走り込むほど実態に近づく、と考えられます。
なお2レースとも真夏の高温下だったため、涼しいレースであれば乖離はもう少し小さくなる可能性があります。
結局、どう使えばいいのか
予想タイムを知りたいなら、直近のレースタイムから逆算するのが最も正確です。 5kmでも10kmでも構いません。実際に走った結果には、エコノミーも当日のコンディションも織り込まれています。
時計のVO2maxは、変化を見る道具として使ってください。 絶対値の精度は高くありませんが、同じ時計で同じように測り続ければ、上がったか下がったかの傾向は分かります。トレーニングが効いているかの目安としては十分機能します。
練習ペースの設定には、VDOT側を使ってください。 ジョグ、閾値走、インターバルのペースは、レースタイムから求めたVDOTを基準にするほうが実態に合います。時計の値をそのまま使うと、設定が速すぎて練習が破綻します。
目安としての換算
今回のデータから言えるのは、時計の表示からおよそ10を引くとVDOTの目安になる、ということです。時計が54なら、VDOTは44前後。
ただしこれは1人の2レース分のデータであり、機種や個人差で変わります。厳密な換算式として使えるものではありません。あくまで「時計の値をそのまま信じると、だいたい10ポイント分だけ甘い見積もりになる」という感覚を持っていただくためのものです。
正確に知りたい場合は、レースタイムから引くのが確実です。VO2max別の一覧表では、時計と同じスケールの数値と、VDOTの両方を併記しています。自分がどちらの数字を見ているのかを確認したうえで使ってみてください。
まとめ
- 時計のVO2maxとVDOTは別の数字。単位が同じなので混同されやすい
- 実測では両者の差は約10ポイントで、走力が変わっても一定だった
- 時計の値から引いた予想タイムは、実際より7分から14分速く出た
- 走力が上がるほど、予想と実際の差は縮まる傾向がある
- 予想タイムはレースタイムから、変化の把握は時計から。使い分けるのが現実的
