自己ベストは走行のどこから取られるのか|NRCとStravaの判定方法

指標を知る

「5kmの個人記録」が、長い走行の中から切り出されることは広く知られています。問題は、その切り出し方です。

考えられる方式は2つあります。スタート地点から5km地点までの累計タイムを記録とするのか、走行中のどこであれ最も速かった5km区間を記録とするのか。この2つは、同じ走行から全く違う数字を出します。

Nike Run Club(以下NRC)とStravaについて、それぞれ確認しました。なお本記事では、アプリが距離ごとに保持している自己ベストを「個人記録」と呼びます。Stravaでは「ベストエフォート」という名称の機能です。

結論

NRCStrava
個人記録は
どの区間から取るか
走行内の任意の区間
(実測で確認)
走行内の任意の区間
(公式に明記)
個人記録の
時間の測り方
判別できず経過時間
(止まった時間を含む)
走行のペース表示の
分母
移動時間
(書き出しデータで確認)
移動時間
(公式に明記)

両アプリとも、個人記録は走行内の任意の区間から切り出されます。スタートからの累計ではありません。以下、根拠を順に示します。

Stravaは「任意の区間」と公式に明記している

Stravaの公式ヘルプには、次の記載があります。

「アップロードするすべてのランについて、カバーしたすべての基準距離での、そのランにおける最速の記録も表示されます」

走行全体のタイムではなく、走行内の最速区間を拾う方式です。対象は400m、1km、1マイル、5km、10km、15km、20km、ハーフ、30km、フルなど14距離。保存されるのは生涯トップ3と年間トップ10です。

NRCは非公開のため、実測で確認した

NRCは判定方法を公開していません。そこで、あるランナーのNRCの個人記録画面に表示されている値と、その記録が出た日の走行データを突き合わせました。

距離NRCの表示スタートからの累計任意区間の最速その区間の開始地点
1km3分57秒4分43秒3分56秒4,044m地点
1マイル6分24秒7分40秒6分21秒3,150m地点
5km21分15秒23分40秒21分13秒5,033m地点

NRCの表示は、いずれも「任意区間の最速」と数秒以内で一致しました。「スタートからの累計」とは46秒から2分25秒も離れており、この方式ではありません。

開始地点を見ると、方式がはっきりします。1kmの個人記録は、5.05kmを走った日の4,044m地点から始まっています。つまり最後の1kmです。1マイルは5.08km走の中盤以降、5kmは10.38km走のちょうど後半から切り出されていました。

スタート直後である必要はなく、走行のどこであっても、最も速かった連続区間が個人記録になります。この点でNRCとStravaは同じです。

ペースと個人記録では、時間の分母が違う

もう一つの定義の違いが、時間の測り方です。

名称定義
経過時間スタートを押した瞬間から終了までの時間。信号待ちや休憩を含む
移動時間実際に動いていた時間

Stravaの場合、公式ヘルプによればペースと平均速度の計算には移動時間が優先されます。一方、個人記録については「レースで、動きを止めても時計が止まらないのと同じように、Stravaのベストエフォートは移動時間ではなくアクティビティの経過時間を使用します」とあります。つまり同じアプリの画面に、異なる分母で計算された数字が並んでいることになります。

NRCの場合、走行タイムが移動時間であることは書き出しデータから確認できました。停止を挟んだインターバル練習の1本で、NRCが記録している走行時間は9分00秒。同じ走行の経過時間は14分07秒です。休憩時間は除かれています。

ただし、NRCの個人記録が経過時間と移動時間のどちらを使っているかは判別できませんでした。今回照合した個人記録は、いずれも途中で停止していない走行から出たものだったため、どちらで計算しても同じ値になるからです。推測で埋めることはしません。

経過時間と移動時間は、どれくらい違うのか

同じランナーの走行記録266本で、2つの時間の差を集計しました。

経過時間と移動時間の差該当する走行
差なし19.2%
1分以上13.2%
3分以上7.1%

止まらずに走り切れば差は出ません(中央値は5秒)。しかし13.2%の走行で1分以上ずれています。最も差が大きかった例では、10.7kmの走行が1kmあたり4分43秒にも6分08秒にもなりました。停止時間は15分15秒です。

NRCでは、インターバル走が個人記録にならない場合がある

ここからはNRCに限った話です。全走行から1kmの最速区間を算出して速い順に並べると、NRCが個人記録として採用しているのは2位の区間でした。

順位1km区間その走行の総距離走行中の停止
1位3分41秒2.40km4分02秒
2位3分56秒 ← NRCが採用5.05kmなし
3位3分57秒5.08kmなし

飛ばされたのは1位の1本だけです。この走行は1kmを3本、間に休憩を挟んで走ったインターバル練習でした。なお3分41秒の区間そのものに停止は含まれていません(区間内のデータ間隔は最大2.56秒)。休止は区間の後に入っています。

この1本には、他と違う点があります。このランナーは普段、NRCで「距離を設定」を選んでから走り始めますが、この日だけは「スピード」(インターバル練習用のモード)を選んで開始していました。Nikeの公式ヘルプにスピードランの機能説明はありますが、個人記録の対象になるかどうかの記載はありません。

考えられる理由は3つあり、この1件からは区別できません。

  • スピードモードの走行を個人記録の対象外にしている
  • 総距離が一定以下の走行を対象外にしている
  • 休止を含む走行を対象外にしている

切り分けるには、スピードモードで5km以上を走り、その中に現在の記録より速い1kmを含めます。それでも更新されなければ、モードが原因だと絞り込めます。

いずれにせよ、インターバル練習で出した速い区間が個人記録に反映されない場合があります。自己ベストが伸びないと感じている場合、走力ではなく判定条件が理由の可能性があります。

レースの予想タイムに使うときの注意

レースの計測は、スタートからゴールまで時計が止まりません。予想タイムの計算に練習データを使うなら、移動時間ベースではなく経過時間ベースの数字を入れるほうが実態に近くなります。

そして、アプリの個人記録をそのまま入力するのは危険です。NRCでもStravaでも、それは長い走行の最も調子の良かった区間を切り出した値だからです。同じランナーのデータでは、5kmを単独で走った最速タイムが21分48秒だったのに対し、全走行を通じた最速5km区間は21分13秒でした。35秒の差があります。区間ベストを入力すれば、走力を高く見積もることになります。

まとめ

  • NRCもStravaも、個人記録はスタートからの累計ではなく、走行中のどこからでも切り出される最速の連続区間
  • Stravaは公式に明記。NRCは非公開だが、実データとの照合で同じ方式と確認できた
  • 実例では、1kmの個人記録が5.05km走の4,044m地点(最後の1km)から出ていた。スタートからの累計では46秒遅くなる
  • Stravaはペース表示に移動時間、個人記録に経過時間を使う。同じアプリ内で分母が違う
  • NRCの走行タイムは移動時間。ただし個人記録がどちらを使うかは判別できなかった
  • 実測266本のうち13.2%で、経過時間と移動時間が1分以上ずれた
  • NRCで、インターバル練習中の最速1kmが個人記録に反映されない例が確認された。理由は特定できていない
  • レースの予想タイムには、区間ベストではなく単独で走り切った記録を使うほうが安全

検証方法と出典

区間タイムは、あるランナーのNRCの走行記録366本(うち軌跡データのある358本)から独自に計算したものです。軌跡データに移動窓をかけ、その距離をカバーする最短の時間区間を探しています。経過時間と移動時間の比較には、同じ走行のStrava側の記録を使いました。

なお、この計算値とNRCの表示値は、距離によって2秒から72秒ずれます(短い距離では計算値が速く、長い距離では遅い)。書き出された軌跡データは約8.5mまたは約2.6秒ごとの記録で、アプリ内部のデータより粗い可能性があります。差の原因は特定できていません。方式の確認は2つの測り方の比較によるもので、秒単位の再現ではありません。アプリの仕様は変更される可能性もあります。

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