「今日はどれくらいの強度で走ればいいのか」
ジョグのつもりが、なんとなく物足りなくて少し上げる。閾値走のつもりが、きつくて少し落とす。気づけば、毎日似たようなペースで走っている。
これは失敗パターンとして知られています。遅い日は遅く、速い日は速く。 このメリハリがないと、土台も閾値も伸びない、という考え方です。
では実際、どれくらいの人がこの失敗に陥っているのか。あるランナーの2年分・355本の記録を、強度帯ごとに数えてみました。
結論から言うと、8割が「中くらいの速さ」でした。
4つの強度帯
VDOT(レースタイムから算出した走力指数)を基準に、練習ペースを4つの帯に分けます。
- Eペースより遅い:ジョグ、回復走
- E〜Tの中間:どちらにも属さない、中途半端な速さ
- T〜Iの間:閾値走からインターバルの範囲
- Iペースより速い:高強度
理想とされる配分は、Eペースの比率が高く、中間帯は少ないことです。中間帯は「疲れる割に、狙った効果が出にくい」ゾーンとされています。
E・T・Iという区分の意味は、練習ペースの決め方の記事で解説しています。
結果:8割が中間帯

| 強度帯 | 1年目 | 2年目 |
|---|---|---|
| Eペースより遅い | 4% | 4% |
| E〜Tの中間 | 77% | 84% |
| T〜Iの間 | 17% | 12% |
| Iペースより速い | 2% | 0% |
Eペースで走った日は、2年間通してわずか4%。そして中間帯が77%から84%へ、むしろ増えています。
これは偶然ではありません。このランナーは元々、ジョグをほとんど行わずTペース走に偏重していたと自己認識していました。実測は、その自己認識を裏付ける形になりました。
月ごとに見ると、ある月だけ違う
24か月分を月別に数えると、ほとんどの月で中間帯が70〜100%を占めています。しかし、明確に外れる月が3つありました。
いずれも、フルマラソンの直前の月です。
この3か月だけ、練習内容の中身が変わっていました。5kmや10kmを本気に近いペースで走る日と、20km以上をゆっくり走る日が両方出てきて、中間の速さで走った日は減っています。
普段は「なんとなく中くらい」の練習を続けていても、レースが近づくと、無意識のうちに強度が両極に分かれる。これは、目的が明確になると自然と練習が整理される、という見方ができます。逆に言えば、目的を意識しない日は、放っておくと中間に寄るということでもあります。
なぜ中間に寄るのか
理由は、体感で強度を決めているからだと考えられます。
Eペースで走ると「遅すぎる」と感じます。特に走力が上がってくると、その違和感は強くなります。かといって、Tペースやインターバルは体力的にきつく、毎日はできません。
結果として、「そこそこ頑張った感じがする、そこそこ楽な」ペースに、無意識に着地する。これが中間帯です。疲労感は得られるが、Eペースの回復効果も、Tペースの閾値向上効果も、どちらも中途半端にしか得られません。
それでも走力は伸びた
ここで一つ、注意しておきたい点があります。
このランナーは、8割が中間帯という「教科書的には良くない」配分を続けながら、2年でVO2maxが46%、フルマラソンのタイムを28分縮めています。
つまり、この配分でも伸びることは伸びる。 理想的な配分ならもっと伸びたかもしれませんが、それはこのデータからは分かりません。比較対象がないからです。
言えるのは、「中間帯に偏っていたから何も起きなかった」わけではない、ということだけです。効率は悪かったかもしれないが、無駄ではなかった。
自分の配分を知るには
GPSウォッチがあれば、自分の配分も同じように数えられます。
- 直近数か月の練習ペースを書き出す
- 自分のEペース、Tペースの目安を確認する(レースタイムから算出できます)
- 各練習がどの帯に入るか分類する
体感では「バランスよく走れている」つもりでも、数えてみると偏っていることは珍しくありません。このランナー自身、2年間それに気づかないまま走っていました。
目標タイム別のEペースはLSDのペースはキロ何分?で計算しています。
断っておきたいこと
1人分のデータです。 中間帯への偏りが誰にでも起きるとは限りません。
強度帯の境界はVDOTから算出した理論値です。 実際の体感とは多少のズレがあります。
この配分を推奨しているわけではありません。 むしろ逆で、「気をつけないと、こうなりやすい」という実例です。バランスの取れた配分については、専門書や指導者の助言を参照してください。
中くらいの強度を中心にした練習についての研究の数字は、Tペース走中心で速くなれる?にまとめています。
まとめ
- 2年間で、練習の77〜84%が「E〜Tの中間」の速さに集中していた
- Eペース(ジョグ)で走った日は、わずか4%
- レース直前の月だけ、強度が両極に分かれる傾向があった
- この配分でも走力は伸びたが、比較対象がないため効率の良し悪しは判断できない
- 体感で強度を決めると、中間に寄りやすい。数えて初めて気づくことがある


