雪道で走り込むことに、乾いた路面以上のトレーニング効果があるのか。研究を調べた結論から書きます。
「効果が高い」と示した研究も、「効果がない」と示した研究も見つかりませんでした。どちらも存在しない理由は、否定されたからではなく、誰も測っていないからです。
ただし、周辺の研究からは分かっていることがあります。寒さそのものが走力に与える影響、路面の軟らかさが消費エネルギーに与える影響、そして冬にペースが落ちる理由。これらは測られています。順に見ていきます。
寒さそのものは走力を落とさない
持久系の男性9名に、クロスカントリースキーウェアを着せ、風速5m/sの環境で−14℃から+20℃までの6条件で走らせた研究があります。
- 疲労困憊に至るまでの時間は−4℃と+1℃が最も長く、−14℃・+10℃・+20℃より有意に長かった
- 最大酸素摂取量(VO2max。1分間に取り込める酸素量の上限で、持久力の土台となる指標)は、6条件すべてで有意差がなかった
氷点下でも、最大酸素摂取量は落ちていません。疲労困憊までの時間は、むしろ−4℃前後で最も長く保たれていました。
ただし限度はあります。訓練を積んだ男性14名を−20℃と18℃で比較した研究では、最大仕事率が2.3%、最大換気量が14.6%低下しました。−20℃まで下がると、数字は落ちます。
マラソンが速いのは涼しい日
6大会・60レース・約179万人の完走記録を解析した研究では、最も速いタイムが出る気温は3.8℃から9.9℃でした(走力層によって異なる)。
冬は「遅くなる季節」ではありません。ただしこの解析に含まれる気温の下限は0℃前後で、氷点下のレースデータを扱った研究は見つかりませんでした。「−10℃で何%遅くなるか」を示した数字は、現時点で存在しません。
約180万人の記録で見た最も速い気温はマラソンの最適気温は何度?にまとめています。
雪の上を走ったときの負荷は、まだ測られていない
ここが調べていて一番意外だった点ですが、雪の上を「走った」ときのエネルギー消費を測った査読論文は見つかりませんでした。雪を扱った研究は歩行のものしかありません。
最も近いのは砂の研究です。同じ距離あたりのエネルギー消費は、固い地面と比べて次のようになりました。
| 移動の種類 | 砂上のエネルギー消費(固い地面比) |
|---|---|
| 歩行 | 約1.8倍 |
| 走行 | 約1.2倍 |
軟らかい路面では消費が増えます。同時に注目したいのは、走行のペナルティが歩行よりはるかに小さいことです。走りは接地時間が短く、沈み込みの影響を受けにくいためと考えられています。
この差は、雪の話を読むときに効いてきます。雪について公表されている数値はすべて歩行のものです。それをそのまま走行に当てはめると、負荷を過大に見積もる可能性が高いということになります。
路面の硬軟で適応が変わるかも、まだ分かっていない
雪道や氷上で一定期間練習した群と、乾いた路面で練習した群を比べた研究は、1件も見つかりませんでした。
最も近いのは、路面の硬さを比べた無作為化比較試験です。オリエンテーリング選手19名が、硬い床と軟らかいマットに分かれて、4週間・週2回のジャンプトレーニングを行いました。結果は次のとおりです。
- ランニングエコノミー(一定のペースで走るときの酸素消費量。少ないほど燃費がよい)は両群とも2〜7%改善したが、群間に差はなかった
- 最大酸素摂取量は両群とも低下し、こちらも群間に差はなかった
走行ではなくジャンプ、4週間、19名という限界はあります。それでも現時点では、路面の硬軟による適応の差は検出されていません。雪道に上乗せ効果があるとも、ないとも言えない状態です。
雪道で変わるのは走り方
効果は測られていませんが、動きが変わること自体は測られています。歩行者1,551名を路面別に観察した研究では、次の数値が報告されています。
| 路面 | ステップ長 | ステップ頻度(歩/分) |
|---|---|---|
| アスファルト | 0.78m | 115.5 |
| 締まった雪 | 0.73m | 116.7 |
| 氷 | 0.64m | 119.5 |
氷の上ではステップ長が約18%短くなり、頻度が上がります。歩行者のデータであり、ランナーのものではありません。ただし方向は、あるランナーの雪道2シーズンの実測と一致します。そちらでは冬にストライドが11%短くなり、ピッチが上がっていました。
歩幅が縮めば、同じピッチで刻んでもペースは落ちます。冬のペース低下は、まず歩幅の問題として説明がつきます。
冬のあいだの時計のVO2maxの実測は冬になるとVO2maxは下がる?で扱っています。
冬に走った距離は無駄になるのか
ここまでの数字を並べると、言えることと言えないことがはっきりします。
言えること
- 寒さそのものは、少なくとも−14℃までの条件で最大酸素摂取量を落としていない
- マラソンが最も速いのは3.8〜9.9℃。涼しさは不利ではない
- 軟らかい路面では、同じ距離のエネルギー消費が増える(砂の走行で約1.2倍)
- 冬にペースが落ちるのは、路面に合わせて歩幅が縮むため
言えないこと
- 雪道で練習すると、乾いた路面より効果が高いのか
- 雪の上を走ったときのエネルギー消費が何倍になるのか
- 氷点下のレースで何%遅くなるのか
「雪道だから効果が高い」と言い切れる根拠はありません。同時に、冬に走った距離が無駄になるという根拠も、どの研究にもありません。春にペースが戻るのは、失ったものを取り返しているのではなく、路面が戻っただけです。
言えるのは、同じペースが出ないことと、負荷がかかっていないことは別だというところまでです。時計に表示されるペースは、路面の情報を含んでいません。冬の走りを評価するなら、ペースより心拍や主観的なきつさのほうが実態に近くなります。
雪の上を走った分が数字として残っていないのは、走る側ではなく、測る側の問題です。
室内のトレッドミルで走るときの時速とペースの換算や、「傾斜1%」の研究はトレッドミルのペースは屋外の何分?にまとめています。
出典
- Sandsund M, et al. Effect of ambient temperature on endurance performance while wearing cross-country skiing clothing. Eur J Appl Physiol. 2012;112:3939. doi:10.1007/s00421-012-2373-1
- Callovini A, et al. Independent, additive and interactive effects of acute normobaric hypoxia and cold on submaximal and maximal endurance exercise. Eur J Appl Physiol. 2024;124:1185–1200. doi:10.1007/s00421-023-05343-9
- El Helou N, et al. Impact of Environmental Parameters on Marathon Running Performance. PLoS ONE. 2012;7(5):e37407. doi:10.1371/journal.pone.0037407
- Zamparo P, et al. The energy cost of walking or running on sand. Eur J Appl Physiol. 1992;65:183. doi:10.1007/BF00705078
- Lännerström J, et al. Effects of Plyometric Training on Soft and Hard Surfaces for Improving Running Economy. J Hum Kinet. 2021;79:187–196. doi:10.2478/hukin-2021-0071
- Fossum K, et al. Winter pedestrian gait on different surface conditions. Transportmetrica A. 2024. doi:10.1080/23249935.2022.2122760
本記事は公表論文の要約であり、個別のトレーニング指導や医学的助言を目的としたものではありません。


