理想どおりに練習できなくても、サブ4には届いた — ある市民ランナーの直前6ヶ月

目標別

「今週は4回走るつもりだったのに、雨で2回しか走れなかった」

「飲み会の翌朝、どうしても起きられなかった。気づけば3日空いていて、少し不安になる」

サブ4(フルマラソンで4時間切り)を目指していると、こうした小さなつまずきの連続です。練習計画は立てた瞬間から崩れはじめ、理想の1週間はなかなかやってきません。

この記事では、実際にサブ4を達成したあるランナーの、レース直前6ヶ月間の記録を振り返ります。結論を先に書くと、このランナーの練習は理想的とは言えないものでした。 ジョグはほとんどせず、練習が空く週もあり、長い距離も数えるほどしか走っていません。それでも、ぎりぎりではありますがサブ4には届きました。

同じように、思いどおりに練習できないことに悩んでいる人に向けて書いています。

一般的に「望ましい」とされる練習

先に、よく言われる練習の考え方を確認しておきます。

  • ジョグ(Eペース=会話ができる程度のゆっくりしたペース)で土台を作る
  • そこにスピード練習や閾値走(Tペース=「ややきつい」と感じる程度のペース)を組み合わせる
  • 30km走のような長い距離も適宜入れる
  • きつい日と楽な日を分け、練習にメリハリをつける

こうした考え方は、一般的な指導書などで広く勧められています(Eペース・Tペース・Iペースとは)。

ただ、分かってはいても、その通りにできるかは別の話です。

ジョグが後回しになる理由

ジョグは時間がかかります。1時間ゆっくり走っても、終わったあとに「練習した」という手応えはあまりありません。

「本当は仕事終わりに走りに行きたい。でも家族と夕飯の時間がずれてしまう」

「30分しか取れないなら、少しでも追い込んだほうが得な気がする」

限られた時間の中で走る人ほど、ついペースを上げてしまう。この感覚に覚えがある人は多いのではないでしょうか。

今回のランナーもまさにこのタイプでした。本人いわく、ジョグはほとんどせず、Tペース前後の「ややきつい」ペースで走ることが大半だったそうです。記録を見ても、直前6ヶ月のペースは速いほうから1割の地点で1kmあたり約5分、遅いほうから1割の地点でも約6分。ゆっくり走った日がほとんど見当たりません。

直前6ヶ月で変わったこと

では、この6ヶ月で何も変わらなかったかというと、そうではありません。その前の6ヶ月と比べると、数字ははっきり動いています。

指標直前6ヶ月その前の6ヶ月
練習回数週あたり約2.9回週あたり約2.0回
週間走行距離約29km約13km
1回あたりの平均距離約10.1km約6.3km
1kmあたりのペース(中央値)約5分30秒約5分57秒
最長走行距離約30km約21km
15km以上の練習回数15回3回

週間走行距離は約2.3倍、1回あたりの距離は約1.6倍になり、ペースも1kmあたり28秒ほど速くなりました。

練習の中身(ペースの偏り)はほぼそのままで、走る回数と1回あたりの距離が増えたというのが、この6ヶ月の一番大きな変化です。

ただし、「その前の6ヶ月」の最初の1ヶ月半ほどは走行記録がなく、記録が始まって間もない時期を含んでいます。数字の伸びには、走ること自体に慣れた分も含まれていると考えられます。

思いどおりにいかなかった週も多い

週あたり約2.9回と書くと順調に聞こえますが、1週間ごとに数えると印象が変わります。

1週間の練習回数該当した週
1回4週
2回6週
3回9週
4回8週

27週のうち10週は、週2回以下しか走れていません。練習の間隔が5日以上空いたことは5回あり、最も長いときは10日間走っていない期間がありました。

月単位で見ても、きれいな右肩上がりではありません。

1ヶ月目2ヶ月目3ヶ月目4ヶ月目5ヶ月目6ヶ月目(レース月)
練習回数11回12回11回14回14回13回
月間距離約127km約131km約95km約145km約144km約113km(大会を含まず)
ペース中央値5分40秒5分14秒5分33秒5分28秒5分27秒5分20秒

3ヶ月目は月間距離が100kmを割り込んでいます。意図した調整だったのか、単に走れなかったのかは記録からは分かりません。

「今月は全然走れなかった」という月があっても、それで全部が台無しになるわけではない。少なくともこのランナーの場合はそうでした。

30km走は6ヶ月で数回

「30km走に繰り出したのに、20kmで脚が止まって帰ってきた」

マラソン練習の定番である30km走は、多くの人にとって心理的なハードルの高い練習です。

このランナーの記録では、20km以上の練習は6ヶ月で8回、そのうち25km以上は3回でした。毎週のように長い距離を走っていたわけではありません。

(なお、途中で切り上げた練習があったかどうかは、記録上の距離だけでは判断できません。)

レース前16週間に絞った長距離走の回数と研究の数字は、30km走は何回走ればいい?にまとめています。

時計のVO2maxは、レース直前に下がっていた

「今日はいい感じで走れた、と思ったのに、時計のVO2maxが下がっている。テンションも下がる」

GPSウォッチを使っていると、一度は経験することだと思います。

このランナーのApple WatchのVO2max(最大酸素摂取量の推定値)は、直前6ヶ月の始めには43前後でした。そこから少しずつ上がり、レースの1ヶ月ほど前には47.8まで伸びています。

ところが、そこから2週間足らずで46.6まで下がりました。レースまで1ヶ月を切った時期に、1.2ポイントの低下です。 レース前の時期としては、気になる動きです。

結果的に数値はその後持ち直し、レース直前には48台に戻りました。そしてサブ4を達成しています。

時計のVO2maxは日々の条件(気温、疲労、走ったコースなど)で上下します。1〜2週間の下落だけを見て一喜一憂しなくてもよい、というのがこの記録から言えることです。数ヶ月単位で見れば、43前後から48台へ、全体としては上昇していました。

なお、時計のVO2maxと、レースタイムから計算するVDOTは別の尺度です。詳しくは時計のVO2maxとVDOTの違いで解説しています。

この記録から言えること、言えないこと

言えることは、理想的な練習配分でなくても、サブ4に届いた例が少なくとも1つあるということです。

  • ジョグはほとんどしていない
  • 週2回以下の週が3分の1以上ある
  • 長い距離は6ヶ月で数えるほど
  • レース1ヶ月前に時計のVO2maxが下がった

それでも届いています。

一方で、言えないこともあります。

  • この練習が「良かった」のかは分からない。より一般的な配分で練習していれば、もっと余裕を持って届いた可能性もある
  • 何が効いたのかは特定できない。走行距離もペースもVO2maxも同時に変化しているため、どれが原因なのかは判断できない
  • たまたま故障しなかっただけかもしれない。同じ練習で別の人が故障しないとは言えない
  • あくまで1人の記録であり、誰にでも当てはまるとは限らない

レース前の数週間に距離をどう減らした人が速かったかは、テーパリングは何週間前から?にまとめています。

まとめ

雨で走れなかった週も、飲み会で空いてしまった3日間も、20kmで引き返した長距離走も、時計の数字にがっかりした夜も、それだけでサブ4が遠のくわけではありません。

この記事は、ジョグを省いてよいと勧めるものではありません。できるなら、一般的に望ましいとされる練習に近づけたほうが良いはずです。

ただ、仕事や家庭の事情で練習がどうしても偏ってしまう、思うように走れない、と悩んでいる人がいれば、「こういう形でも届いた例がある」という一つの参考として受け取っていただければと思います。

サブ4に必要な数値の目安はサブ4に必要なVO2maxはいくつ?で、自分の現在地はVO2max別 マラソン予想タイム一覧表で確認できます。

このランナーのレース前16週間の走行距離は、サブ4の月間走行距離は何km?で研究の数字と比べています。

集計方法

練習の数値は、あるランナーがNike Run Clubで記録した走行ログから集計しました。「直前6ヶ月」はレース前日までの約26週間、「その前の6ヶ月」はその直前の同じ長さの期間です。週あたりの数値は、記録のない期間も含めて26週で割っています。レース本番は練習の集計に含めていません。ペースは各練習の平均ペースの中央値です。VO2maxはApple Watchがヘルスケアに記録した推定値です。

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