マラソンの「前半の貯金」は得か損か?|約170万人のペース配分を数字で検証

目標別

「前半で貯金を作っておけば、後半に落ちても大丈夫」。マラソンでよく聞く考え方ですが、本当にそうでしょうか。世界11都市の大会に出た市民ランナー約170万人の記録で、これを確かめた研究があります。

答えは、貯金とは逆。完走タイムが最も速かったのは、最初の5kmを、ゴールタイムどおりの平均ペースで入った人たちでした。4時間でゴールする人に当てはめると、5km通過で28分26秒。研究では、これより1割速く入った人たちが、平均で約37分も遅くゴールしていました。

結論:最初の5kmの入り方と完走タイム

最初の5kmの入り方4時間の人なら5km通過完走タイム(平均)
平均ペースより10%速い25分35秒約37分遅い
平均ペースちょうど28分26秒最も速い
平均ペースより10%遅い31分16秒約29分遅い

「平均ペース」は、ゴールタイムを42.195kmで割ったペースのことです。4時間なら1kmあたり5分41秒。速すぎても遅すぎても完走タイムは遅く、同じ1割なら速く入ったほうが遅れは大きくなっていました。研究はSmyth(2018年)によるもので、5km通過の時間はこのサイトで計算しています。

目標タイム別:5km通過の早見表

目標タイム平均ペース(1kmあたり)平均ペースの5km通過10%速い5km通過
3時間00分4分15秒21分19秒19分11秒
3時間30分4分58秒24分53秒22分23秒
4時間00分5分41秒28分26秒25分35秒
4時間30分6分23秒31分59秒28分47秒
5時間00分7分06秒35分32秒31分59秒

右の列の時間で通過していれば、研究でいう「10%速い入り」です。5km通過の差は、2分〜3分半ほど。1kmあたりにすると、4時間の人で34秒の違いです。完走タイムの差(約37分)と比べると、入りの差はずっと小さく見えます。

後半は前半より何分遅くなるか

市民ランナーの多くは、後半のほうが遅くなります。Smythの研究でも、後半を前半より速く走る人はまれでした。では、どれくらい遅くなるのか。Kaisら(2019年)は、2015年のロンドン・シカゴ・ニューヨークで完走した約11.7万人を調べています。後半は前半より平均で男性が約15%、女性が約12%遅くなっていました。

目標タイム男性(前半/後半)女性(前半/後半)
3時間00分1時間24分/1時間36分1時間25分/1時間35分
3時間30分1時間38分/1時間52分1時間39分/1時間51分
4時間00分1時間52分/2時間08分1時間53分/2時間07分
4時間30分2時間06分/2時間24分2時間07分/2時間23分
5時間00分2時間20分/2時間40分2時間22分/2時間38分

市民ランナーの平均的な走り方を、目標タイムに当てはめた表です。4時間でゴールした男性なら、ハーフ通過が約1時間52分、後半が約2時間08分。平均すると、これくらい後半に時間がかかっていたことになります。

男性のほうが後半に落ちやすい傾向は、Smythの研究にも出ています。ゴール前(40km〜ゴール)で失速した人は、男性65%に対し、女性は47%未満でした。Smythは、男性のほうが自分の走力を高く見積もりがちだとする研究を挙げ、それが理由の一つと考えています。

自己ベストが出たときは、入りが落ち着いていた

3回以上完走した約48万人について、自己ベストのレースとそれ以外を比べた分析もあります。自己ベストのときの最初の5kmは、平均ペースより約3%速い程度でした。それ以外のレースでは約6%速く入っています。

最初の5kmの入り方自己ベストが出た割合
平均ペースより20%以上遅い20%余り
平均ペースちょうど36%
平均ペースより20%以上速い10%未満

自己ベストの77%は、平均ペースとの差が5%以内の入り方から生まれていました。4時間の人に当てはめると、5km通過が約27分01秒〜29分51秒の範囲です。

気温と完走タイムの関係はマラソンの最適気温は何度?で扱っています。

注意点

  • 記録を比べた研究:実験で確かめたものではありません。著者は、どの都市・どの大会で分けても同じ傾向が出たことなどから、速い入りが遅い完走の原因になっていると考えています
  • 海外の大きな大会のデータ:Smythの研究は東京を含む11都市の2005〜2016年の記録で、エリート(男性150分未満、女性185分未満)と7時間以上の人を除いています。Kaisらの研究は6時間以内の完走者です。気温やコースの違いは、どちらも区別していません
  • 平均の傾向:表の時間は、研究に出た人たちの平均から計算したものです。1人ひとりの結果がこのとおりになるとは限りません
  • この記事はペース配分を勧めるものではありません:研究の数字をまとめたものです

同じペースで走った場合の5kmごとの通過タイムはマラソン ペース別 通過タイム表、目標タイムに必要な走力はサブ4に必要なVO2maxは44.6などの目標別の記事にまとめています。

後半に大きく失速する「30kmの壁」は、マラソンの「30kmの壁」は本当にある?にまとめています。

出典

  • Smyth B. Fast starters and slow finishers: A large-scale data analysis of pacing at the beginning and end of the marathon for recreational runners. Journal of Sports Analytics, 2018(論文の本文)
  • Kais Ü, et al. Pacing strategy of the finishers of the world marathon majors series. Kinesiology, 2019(論文(PDF))

目標タイム別のペース・5km通過・前半と後半の時間は、研究の割合を使ってこのサイトで計算したものです。ペースと5km通過は秒未満を切り捨て、前半・後半は分単位に丸めました。Kaisらの値は「後半の時間が全体の何%か」の50%からのずれで示されているため、後半が前半より何%遅いかに直しています。

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