GPSウォッチで測る距離は、研究では平均3〜6%ずれていました。8機種を市街地・林・陸上トラックで調べた研究の結果で、市街地や林の中では短く出て、最大で約9%短くなりました。ハーフマラソンの大会でランナーの記録を集めた調査では、平均の誤差は時計が0.6%、スマホのアプリが1.7%でした。あるランナーがフルマラソンを2回走ったときの記録は、どちらも42.195kmより0.5〜0.8%長くなっていました。
結論:GPSで測った距離はどれくらいずれるか
| 調査 | 条件 | 結果 |
|---|---|---|
| Gilgen-Ammann ほか(2020年) | 時計8機種(Apple・COROS・Garmin・Polar・Suunto)。市街地・林・陸上トラックの404m〜4,297mのコース | 平均の誤差は機種によって3.2〜6.1%。市街地と林では短く出た |
| Pobiruchin ほか(2017年) | ドイツのハーフマラソン大会。ゴール後に集めた記録214件 | 平均の誤差は時計0.12km(0.6%)、スマホのアプリ0.35km(1.7%) |
| あるランナー | フルマラソン2回。1回目はApple Watch、2回目はiPhoneで記録 | 42.195kmより0.8%と0.5%長い |
大会での数字には、GPSの誤差のほかに、ランナーが実際に走った線がコースの測定に使う最短の線より長くなる分も含まれます。どこまでがGPSの誤差かは、この方法では分けられません。
GPSとGNSSの違い
人工衛星の電波で位置を測る仕組みを、まとめてGNSS(全地球航法衛星システム)と呼びます。GPSはその1つで、アメリカのシステムです。いまのGPSウォッチやスマホの多くは、GPSだけでなく、いくつかのGNSSを組み合わせて使っています。
| 名前 | 運用する国・地域 |
|---|---|
| GPS | アメリカ |
| GLONASS | ロシア |
| Galileo | EU |
| BeiDou | 中国 |
| みちびき(QZSS) | 日本(日本とその周辺向け) |
ガーミンの時計では、使う衛星を設定で選べます。Forerunner 955のマニュアルでは、「GPSのみ」「すべてのシステム」「すべて+マルチバンド」と、環境に応じて自動で切り替える「自動選択(SatIQ)」が用意されています。複数のシステムを使うと、建物の多い場所などで位置を測りやすくなり、位置が決まるまでの時間も短くなると説明されています。
距離がずれる理由
アメリカ政府のGPS公式サイトは、GPSを使えるスマホの位置の精度を、空が開けた場所で半径4.9m以内が一般的としています。そのうえで、建物・橋・木の近くでは精度が落ちるとしています。ずれる主な理由として挙げられているのは、次の3つです。
- 電波がさえぎられる:建物、橋、木など
- 電波の反射(マルチパス):建物や壁で反射した電波を受けて、位置がずれる
- 大気の影響:電波が大気を通るときにゆがむ
時計は、位置を一定の間隔(多くは1秒ごと)で記録し、その点をつないで距離を出します。位置が少しずつずれると、つないだ線の長さも変わります。Gilgen-Ammannらの研究では、市街地と林では距離が短く出ていました。一方、陸上トラックでは8機種のうち6機種が少し長く測っていました。同じ時計でも、走る場所によってずれる向きが変わるということです。また、多くの機種で、歩いたり自転車に乗ったりしたときより、走ったときのほうが誤差は大きくなっていました。
みちびきは日本の真上付近に見える
みちびきは、日本の真上付近に長くとどまる軌道を回る衛星で、GPSと一緒に使える電波を出しています。内閣府の資料では、真上付近に見えるため、山や建物で電波がさえぎられにくく、市街地や山あいで不足しがちな衛星を補えると説明されています。
みちびきには、誤差を1m程度まで小さくする補強のサービス(サブメータ級)もあります。ただし、ランニング用の時計がこのサービスを使っているかどうかは、各社の公表資料では確認できませんでした。Apple Watchの仕様では、受信できる衛星にQZSS(みちびき)が含まれています。
デュアルバンド(マルチバンド)で何が変わるか
衛星は、いくつかの周波数で電波を出しています。1つの周波数(主にL1)だけを受けるのがシングルバンド、2つ以上(L1とL5など)を受けるのがデュアルバンド(ガーミンの呼び方はマルチバンド)です。
- 大気の影響を減らせる:GPS公式サイトは、2つの周波数を使うと、大気による電波のゆがみを補正できるとしています
- 反射に強くなる:ガーミンのマニュアルは、マルチバンドでは反射や大気による誤差が減り、建物の多い場所などでも記録が安定するとしています
- 開けた場所では差が小さい:ガーミンの技術者は、空が開けた場所ではGPSのみでもマルチバンドとほぼ同じ精度が出ると説明しています
- 電池の消費が増える:ガーミンが公表した fēnix 7X Solar Sapphire の電池の持ち(最大)は、GPSのみ89時間、すべてのシステム63時間、すべて+マルチバンド36時間です
ガーミンの「SatIQ」は、環境に応じてマルチバンドを使う時間を自動で決める機能です。ガーミンは、テストでマルチバンドが使われたのは運動時間の約15%だったとしています。
デュアルバンドの時計とシングルバンドの時計で、ランニングの距離の誤差がどれだけ違うかを比べた査読付きの研究は、見つかりませんでした。海外のレビューサイトでは同じコースを複数の時計で走る比較が行われていますが、1回ごとの比較で、何%違うと言える数字にはなっていません。
GNSS以外で距離を測る方法
トンネルや屋内、トレッドミルのように衛星の電波が届かない場所では、時計は加速度計(腕の動きを測るセンサー)などで距離を推定します。Appleは、空が開けた平らな場所でApple Watchを着けて約20分走ったり歩いたりすると、歩幅を学習して、GPSが使えない場所での距離やペースの精度が上がると説明しています。速さを変えて走る人は、それぞれの速さで約20分ずつ必要です。
加速度計による距離は、歩幅を推定した値です。ふだんと違う走り方や速さでは、ずれが大きくなる可能性があります。どれだけずれるかを示した公式の数字は、見つかりませんでした。
スマホと時計では何が違うか
Pobiruchinらのハーフマラソンの調査では、スマホのアプリの平均の誤差(0.35km)は、時計(0.12km)の約3倍でした。ただし、集まった記録はスマホ30件・時計179件で、機種はばらばらです。スマホが少し長く測る傾向があったと報告されています。
スマホの中にも、デュアルバンドに対応した機種があります。たとえばiPhone 16 Proは、仕様に2つの周波数のGPS(dual-frequency GPS)が書かれています。Apple Watchで2周波に対応しているのはUltraです。
| Apple Watchの機種 | Appleの比較ページのGPSの欄 |
|---|---|
| Ultra(初代〜Ultra 4) | 高精度2周波GPS |
| Series、SE | GPS |
ほかのブランドのデュアルバンド対応や価格は、VO2maxが測れるGPSウォッチはどれ?で確かめてください。Stravaの年間レポートでは、記録の72%はスマホのアプリによるものでした(世界のランニングはどうなっている?)。
あるランナーのフルマラソン2回の記録
| 記録した機器 | 記録された距離 | 42.195kmとの差 | |
|---|---|---|---|
| 1回目 | Apple Watch Series 9(Nike Run Clubのアプリ) | 約42.53km | +約330m(+0.8%) |
| 2回目 | iPhone 15(Nike Run Clubのアプリ。心拍数はApple Watch) | 約42.42km | +約230m(+0.5%) |
2回とも、記録された距離は42.195kmより長くなっていました。1回目の約330mは、1kmあたり5分41秒(サブ4のペース)で走ると約1分53秒にあたります。時計の距離が42.195kmになった時点では、まだゴールの手前にいたことになります。時計の表示ペースどおりに走っていても、実際のペースはそれより少し遅いということです。
Apple Watch Series 9もiPhone 15も、Appleの仕様に2周波(デュアルバンド)の記載がない機種です。この2回は、コースも機器も違います。2回目のほうが42.195kmに近かったことから、「スマホのほうが正確」とは言えません。研究の結果(スマホのほうが誤差が大きい)とも合わない1人分・2回分の数字として、そのまま載せています。
注意点
- 研究の時計は古い:Gilgen-Ammannらの研究は2020年、Pobiruchinらの調査は2016年の大会です。デュアルバンドの時計が広まる前の結果です
- 大会の距離は「正解」ではない:公認コースは最短の線で測られていて、ランナーが実際に走る距離はそれより長くなります
- 設定で変わる:同じ時計でも、衛星の設定や記録の間隔で結果が変わります
- 実測は1人分:あるランナーの2回の記録は、条件も機器も違う2回の結果です
イーブンペースで走ったときの通過タイムはマラソン ペース別 通過タイム表、時計のVO2maxの見方はGPSウォッチのVO2maxはどこで見る?、アプリの自己ベストの取り方は自己ベストは走行のどこから取られるのかにまとめています。
出典
- Gilgen-Ammann R, Schweizer T, Wyss T. Accuracy of Distance Recordings in Eight Positioning-Enabled Sport Watches: Instrument Validation Study. JMIR mHealth and uHealth, 2020(PubMed)
- Pobiruchin M, Suleder J, Zowalla R, Wiesner M. Accuracy and Adoption of Wearable Technology Used by Active Citizens: A Marathon Event Field Study. JMIR mHealth and uHealth, 2017(論文のページ)
- GPS.gov「GPS Accuracy」(スマホの精度、ずれる理由、2つの周波数による補正)
- 内閣府 みちびき「パネル資料」(2024年7月)(みちびきの特徴とサブメータ級のサービス)
- Garmin「Satellite Settings」(Forerunner 955 マニュアル)(衛星の設定)
- Garmin「Garmin Engineer Talks SatIQ」(2022年8月)(マルチバンドが必要な場面、電池の持ち、使用時間の割合)
- Apple「ワークアウトとアクティビティの精度を高めるためにApple Watchを調整する」(歩幅の学習)
- Apple「Apple Watchのモデルを比較する」、Apple「iPhone 16 Pro – Tech Specs」、Apple「iPhone 15 – Tech Specs」(GPSの仕様)
- the5krunner「GPS (GNSS) Accuracy in Sports Watches」(記録の間隔、各GNSSの運用国。海外のレビューサイト)
誤差の割合と、距離の差をタイムに直した数字は、このサイトで計算したものです。ランナーの記録は、Nike Run Clubで記録した走行データによります。


