睡眠不足で運動の成績が落ちることは、研究で確かめられています。69本の論文を総合した分析では、睡眠が足りないと運動能力は平均7.6%低下していました。一方、あるランナーの309回のランを前夜の睡眠時間ごとに比べると、走りの効率の差は1%に満たず、はっきりした関係は見られませんでした。
研究で分かっていること
睡眠不足と運動能力の関係を調べた研究をまとめた分析(Craven ほか、2022年)の結果です。69本の論文、のべ959人分のデータを扱っています。
| 分かったこと | 内容 |
|---|---|
| 全体の影響 | 睡眠不足で運動能力が平均7.6%低下 |
| 影響を受けた運動 | 持久系、筋力、短時間の高強度運動など、調べたすべての種類で低下 |
| 起きている時間 | 運動の前に起きていた時間が1時間長くなるごとに、約0.4%ずつ低下 |
| 時間帯 | 午後の運動では一貫して低下。午前の運動はほとんど影響を受けなかった |
| 睡眠不足の種類 | 徹夜と、朝早く起きて睡眠が短くなった場合は低下。夜更かしで寝る時間が遅くなった場合は、はっきりした低下が見られなかった |
同じ「睡眠が短い」でも、徹夜や早起きで削った場合と、寝る時間が遅くなった場合とで、影響の出方が違うという結果です。また、対象者の89%は男性でした。
あるランナーの実測:前夜の睡眠時間と走りの効率
Apple Watchが記録した睡眠時間と、その翌日に走ったラン309回(3km以上、心拍数の記録があるもの)を突き合わせました。
比べた数値は、同じ心拍数でどれだけ速く走れたかです。1拍あたりに進んだ距離を、そのランナーの前後1か月の平均的な値と比べ、何%良かったか悪かったかを出しました。走力の伸びや季節による変化の影響を除くためです。
| 前夜の睡眠時間 | ランの回数 | 走りの効率(いつもと比べて) |
|---|---|---|
| 5時間未満 | 38回 | ±0.0% |
| 5〜6時間 | 100回 | +0.2% |
| 6〜7時間 | 108回 | −0.2% |
| 7〜8時間 | 43回 | +0.1% |
| 8時間以上 | 20回 | −0.3% |
どの睡眠時間でも、いつもとの差は0.3%以内でした。睡眠が長いほど効率が良い、という傾向は見られません。前夜7時間以上眠った日と6時間未満だった日を比べた差は−0.2%で、偶然のばらつきで説明できる範囲(95%信頼区間 −1.2%〜+1.1%)に収まっていました。
研究で影響が出やすいとされた午後のランだけに絞ると、前夜5時間未満の日は−0.7%、7時間以上の日は+0.1%でした。研究と同じ向きの差ですが、1%に満たない小さな差です。
研究ほどの差が出なかった理由(考えられること)
- 全力で走っていない:研究の多くは全力の運動で能力を測っています。今回のランはほとんどが練習で、疲れている日は自然にペースを落としている可能性があります
- 睡眠時間の幅が狭い:このランナーの睡眠は平均6.2時間で、多くが5〜7時間でした。4時間未満の夜は8回しかなく、徹夜のような強い睡眠不足は含まれていません
- 時計の睡眠記録は推定:Apple Watchの睡眠時間は、睡眠の検査で測った値と同じではありません
ふだんの練習の範囲では、1晩の睡眠時間の違いは走りの数字に表れにくい、というのがこのデータから言えることです。レースのような全力の場面でも同じとは限らず、その場面については研究の結果のほうが参考になります。
走る時間帯(朝と夜)で比べた結果は朝ランと夜ラン、速く走れるのはどっち?にまとめています。
注意点
- 実測は1人分のデータで、関係の有無を確かめたものです。睡眠と走力の因果関係を示すものではありません
- この記事は、睡眠時間と走りの数値の関係を扱ったものです。眠れない、疲れが取れないといった悩みは、医師などの専門家に相談してください


