GPSウォッチのVO2max(最大酸素摂取量)は、走力が落ちていなくても下がることがあります。時計は「同じ速さで走ったときの心拍数」から推定しているため、心拍数を上げるもの(暑さ、疲れ、体調)や、速さを落とすもの(坂、雪道)があると、推定値が下がります。あるランナーの約2年の記録では、走り続けていた時期にも1〜2ポイントの低下が6回あり、その多くは数週間で戻りました。
結論:時計のVO2maxが下がる主な原因
| 原因 | 下がる仕組み | 走力が落ちたのか |
|---|---|---|
| 暑さ・湿度 | 同じペースでも心拍数が上がる | 多くは一時的 |
| レースや練習の疲れ | 心拍数が上がる、ペースが落ちる | 多くは一時的 |
| 体調不良・睡眠不足 | 心拍数が上がる | 多くは一時的 |
| 坂・雪道・不整地 | 同じ心拍数でもペースが落ちる | 走力とは別の要因 |
| 心拍の測定誤差 | 手首のセンサーが心拍数を高く拾う | 走力とは別の要因 |
| 体重の設定の変更 | 推定に体重が使われる | 走力とは別の要因 |
| 走る量が減った・休んだ | 心肺の能力そのものが落ちる | 落ちている可能性がある |
走り続けているのに下がった場合は、上の5つ(体重の設定まで)のどれかであることが多いと考えられます。休んだ場合の下がり方は、ケガで休むとVO2maxはどれだけ下がる?で研究をもとにまとめています。
時計はVO2maxをどう推定しているか
GPSウォッチは酸素の量を測っていません。屋外を走ったときの速さと心拍数の関係から、VO2maxを推定しています。同じ速さを低い心拍数で走れていれば推定値は上がり、高い心拍数が必要になれば下がります。つまり、心拍数を押し上げるものや、速さを押し下げるものは、走力と関係なく推定値を下げます。
Garminの一部の機種は、この影響を補正する機能を持っています。マニュアルによると、気温が22℃を超えるときと、標高が800mを超えるときに、暑さや高地への慣れに応じてVO2maxの推定値を補正します(スマートフォンから気象データを取得している場合)。Apple Watchなど他社の時計に同様の補正があるかは、公式情報では確認できませんでした。
あるランナーの実測:走り続けていても6回下がった
Apple Watchの約2年分の記録から、4週間以内に1ポイント以上下がった時期を取り出しました。どの時期も週30〜40km程度は走り続けていて、休んでいたわけではありません。
| 時期 | 時計のVO2max | 低下 | 同じペースでの心拍数 |
|---|---|---|---|
| 1年目の夏 | 47.9 → 46.6 | 2.5% | 上がった(効率 −2.4%) |
| 1年目の秋 | 49.0 → 47.1 | 3.8% | 上がらなかった(1回だけの低い値) |
| 1年目の晩秋 | 51.5 → 50.3 | 2.2% | 上がった(効率 −1.9%) |
| 冬(雪道) | 52.4 → 50.4 | 3.8% | 上がった(効率 −1.7%) |
| 2年目の夏 | 54.1 → 52.4 | 3.2% | 上がった(効率 −2.7%) |
| フルマラソン後(2年目) | 54.5 → 52.2 | 4.3% | 上がった(効率 −1.3%) |
「効率」は、1分間に進んだ距離を平均心拍数で割った値です。下がる前の4週間と比べて、何%変わったかを示しています。6回のうち5回は、同じペースを走るのに必要な心拍数が上がっていました。時計は、この心拍数の上昇を走力の低下として読み取ったと考えられます。
夏は2年とも下がり、数週間で戻った
1年目も2年目も、夏に1〜2ポイント下がりました。2年目の夏は、ペースはむしろ速くなっていましたが、平均心拍数が159から165に上がっていました。どちらの年も、3〜4週間ほどで元の水準に戻り始めています。暑さで心拍数が上がる時期の低下は、走力の低下とは分けて考えたほうがよさそうです。
レースの後は、下がったときと下がらなかったときがあった
2年目のフルマラソンの後は、約2週間で54.0から52.2まで下がりました。一方、1年目のフルマラソンの後は下がらず、2週間後には上がっていました。レースの後に必ず下がるわけではなく、疲れの残り方によって違うと考えられます。
1回だけ下がった値は、気にしなくてよいことが多い
1年目の秋には、48.4から47.1へ2日で下がり、1週間後には48.7に戻っていました。この時期は、同じペースでの心拍数も上がっていません。1回だけの低い値は、その日の測定条件によるものと考えられます。判断するときは、1回の値ではなく数週間の流れを見るほうが確実です。
冬の雪道や坂でも下がる
北海道の雪道を走っていた冬にも、約4週間で2ポイント下がりました。雪や坂ではペースが落ちるため、時計が走力を低く見積もるのは自然なことです。雪道でのペースの変化は、冬のペース低下の記事で扱っています。
雪道の2シーズンを月別に見ると、冬のあいだはほとんど下がっていませんでした(冬になるとVO2maxは下がる?)。
下がった値で予想タイムはどう変わるか
| 時計のVO2maxの変化 | フルマラソン予想の変化 |
|---|---|
| 45 → 43 | 約9分遅くなる |
| 50 → 48 | 約8分遅くなる |
| 54.1 → 52.4(2年目の夏) | 約6分遅くなる |
一時的に下がった値を一覧表に当てはめると、予想タイムは数分から10分近く遅くなります。暑い時期やレースの後の値で目標を考えると、実際の走力より低く見積もってしまう可能性があります。
注意点
- 実測は1人分のデータで、Apple Watchの値です。他社の時計や他の人で同じ傾向になるとは限りません
- 気温のデータは使っていません。夏の低下を暑さによるものとしたのは、時期と心拍数の変化からの推測です
- 体調不良や睡眠不足による低下は、この記録からは確かめていません。睡眠と走りの関係は睡眠時間は走りに影響するのかで扱っています
VO2maxという数値の意味はVO2maxとは?、時計ごとの見方はGPSウォッチのVO2maxはどこで見る?にまとめています。
下がるのではなく、数値が動かない・更新されない場合は、VO2maxが更新されないのはなぜ?をご覧ください。
出典
- Garmin fēnix 7 Owner’s Manual「Heat and Altitude Performance Acclimation」
- Apple サポート「心肺機能レベルを記録する」(推定に使われる情報)
予想タイムはDaniels-Gilbertの式、時計の数値(生理学的なVO2maxの尺度)との換算はCooperの式によります。


